日本人の関心
残念なことに、日本では米国における保護主義の動きについての情報にはこと欠かない。しかし、「反保護主義」の動きについて報告される機会は少ない。声高に保護主義・対日制裁を叫ぶ議員などには、驚くべき数の日本人が近づく。その半面、日本の長期的利益にも合致し、政策理論的には学ぶべきことも多い反保護主義の動きに関しては、ほとんど関心が払われていないというのが現実である。
ブルッキングス研究所
ワシントンの有力シンクタンクであるブルッキングス研究所のR・クランドール上級研究員、アメリカン・エンタープライズ研究所のH・シュタイン上級研究員、ヘリテージ財団のE・フルナー会長、ケイトー研究所のB・ニッカネン会長などが記者会見したことがある。
彼らは保護主義立法について、以下の警告を発していた。
- (1)米国の消費者にコスト負担を課する
- (2)貿易相手国の報復による世界経済の縮小均衡をもたらす
- (3)活力ある国内産業に打撃を与える
- (4)米国の雇用増をもたらさないばかりか、貿易赤字削減にも役立たない。
CEI
自由貿易派のシンクタンク研究者に行動を促し、反保護主義運動の組織化を図ろうとしている代表的人物が、CEI(コンペティティブ・エンタープライズ・インスティチュート)のF・スミス会長である。
彼は保護主義を抑制するために結集した研究機関、議会、産業団体などのスタッフで構成されるジェファーソン・グループのメンバーであり、CSE(Citizenes for a Sound Economy)といわれる全米に23万人の会員を持つ市民運動団体(代表R・H・フィンク)などとも連携している。
これらの反保護主義運動の意義は、とくに日本人の立場から考えた場合、次のように整理できる。
- (1)感情的となりがちな貿易摩擦に関する論議を経済政策論議にシフトさせていく。
- (2)外交問題としての貿易摩擦ではなく「自由貿易対保護貿易」の米国における国内問題として再認識させていく。
- (3)いわゆる「日本ロビー」による米国世論への反保護主義キャンペーンとは異なり、米国の公益を代表し、客観性のある立場からの活動と受けとめられる。
小さな政府
これらのアメリカでの運動は日本のために展開されているものではなく、「小さな政府、公的規制解除、減税、民間活力強化」を支持する理論の実践活動の一環である。具体的な活動内容は、議員、議会関係スタッフ、政府高官、ロビイスト、オピニオンリーダーに対し、グループの意見を訴える活動や、高名エコノミストによる新聞等への論文寄稿などであるが、圧力団体政治がシステムとして定着している米国では、こうした地道な活動が重要なのである。
ラルフ・ネーダー・グループなど米国の消費者運動
この運動の限界として、現状ではラルフ・ネーダー・グループなど米国の消費者運動が必ずしも反保護主義理論に理解を示していないという点がある。だが、世界経済との相互依存の中でしか生きていけない日本こそ、これらの運動に関心を持ち、日本のプリンシプルとして経済産業政策・企業経営の中に投影させていくべきなのではないだろうか。